東京地方裁判所 昭和52年(ワ)7716号 判決 1978年10月23日
主文
一 被告らは原告西島俊之、同西島容子それぞれに対し、各自三八六万四、八〇五円とこれに対する昭和五二年九月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは原告西島繁、同西島愛子それぞれに対し、各自一〇〇万円とこれに対する昭和五二年九月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
三 各原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は五分し、その四は原告らの、その余は被告らの負担とする。
五 この判決第一、第二項は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは各自、原告西島俊之に対し二、二六九万七、七三〇円と、原告西島容子に対し二、二六九万七、七三〇円と、原告西島繁に対し三〇〇万円と、原告西島愛子に対し三〇〇万円と右各金員に対する昭和五二年九月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 第一項について仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 交通事故の発生
昭和五一年一月一三日午後三時五四分、静岡県田方郡大仁町田原野三二〇番地交差点の横断歩道上で、被告露木一馬運転の普通乗用自動車(静岡せ六六五一号)が横断中の西島志をりに衝突し、志をりは頭蓋骨骨折等によりその場で死亡した。
2 被告らの責任原因
(一) 被告一馬は対面信号が赤色を示していたのに、速度を出しすぎて交差点内に突走つた過失によつて、本件事故を発生させた。
(二) 被告露木正一は加害車両を所有し、自己のため運行の用に供していた。
(三) 被告伊東市農業協同組合は被告一馬を使用し、同被告が被告組合の業務執行中にこの事故を起した。
3 損害関係
(一) 志をりの損害と相続
(1) 逸失利益 三、六〇八万五、一〇〇円
志をりは死亡時、小学校二年生(八歳)の健康で学業成績も優秀な女子であつた。労働可能年数は二二歳から六七歳までの四六年間、算定基礎収入は昭和五〇年賃金センサス中の大学卒女子労働者平均賃金を、昭和五一年、昭和五二年の賃金上昇率を五パーセントずつとして上昇させた額に家事労働分として毎月五万円ずつを加算した金額、生活費は右収入の五割、中間利息はホフマン式により控除
(2) 慰藉料 一〇〇〇万円
(3) 相続
原告俊之、同容子は志をりの親である。(1)、(2)の損害賠償請求権を二分の一ずつ相続した。
(二) 慰藉料
(1) 原告俊之、同容子分 各五〇〇万円
志をりの父、母として蒙つた精神的損害の額はいずれも五〇〇万円を下らない。
(2) 原告繁、同愛子分 各三〇〇万円
志をりの祖父、祖母として蒙つた精神的損害の額はいずれも三〇〇万円を下らない。
(三) 葬儀費用
原告俊之、同容子で一七万五、〇〇〇円ずつ負担した。
(四) 損害のてん補
(1) 原告俊之、同容子は、本件交通事故に基づく損害につき、自賠責保険金一、二九八万九、六四〇円、被告らから五五万円を受領した。
(2) 原告俊之、同容子は(一)ないし(三)の損害から、六七六万九、八二〇円ずつを差引く。
(五) 弁護士費用
原告俊之、同容子は一二五万円ずつを負担した。
4 まとめ
よつて、被告ら各自が不法行為に基づく損害賠償金として、原告西島俊之に対し二、二六九万七、七三〇円、原告西島容子に対し二、二六九万七、七三〇円、原告西島繁に対し三〇〇万円、原告西島愛子に対し三〇〇万円と右各金員に対する不法行為日後の昭和五二年九月六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1、2の事実は認める、3のうち(一)(1)中の志をりの死亡時の年齢の点と(四)(1)の事実は認め、その余は知らない。
三 抗弁
被告らは原告らに対し、本件交通事故に基づく損害賠償金として五〇万円を支払つた。
四 抗弁に対する認否
五〇万円の受領は認める。但し、香典として贈られたものであるから、損害をてん補したとはいえない。
第三証拠〔略〕
理由
一 交通事故の発生
請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 被告らの責任原因
請求原因2の(一)ないし(三)の事実は関係当事者間に争いがない。
三 損害関係
1 志をりの損害と相続
(一) 逸失利益
志をりが死亡時八歳であつたことは当事者間に争いがない。同女の労働可能年数は二二歳から六八歳までの四六年、その収入は公刊されている昭和五一年賃金センサス中の全労働者の平均給与額に依拠し、生活費は収入の三五パーセントを占めるものとして逸失利益を算出し、現価はライプニツツ式によつて換算するのが相当である。
算式
(143000×12+467900)×(1-0.35)×(18.9292-9.8986)=12819252
(二) 慰藉料 四〇〇万円
(三) 相続
原告西島容子本人の供述によれば、原告俊之、同容子が志をりの父母で、志をりに属する権利をそれぞれ二分の一ずつ相続したと推認できる。
2 各原告の慰藉料
(一) 原告俊之、同容子分 各二〇〇万円
(二) 原告繁、同愛子分 各一〇〇万円
原告西島繁本人の供述によれば、原告繁と同愛子は志をりの祖父母で、志をりが生まれてこのかた、常にそのそばにいて種々世話をし、愛護していたことが認められる。これら諸般の事情を考慮すると、原告らが蒙つた精神的損害の額はそれぞれにつき一〇〇万円と算定するのが相当である。
3 葬儀費用
原告西島容子本人の供述によれば、同原告と原告俊之は志をりの葬儀費用として合計三五万円を下らない額を折半して負担したことが認められる。
4 損害のてん補
(一) 請求原因3(四)(1)の事実は当事者間に争いがなく、受領額六七六万九、八二〇円ずつを原告俊之、同容子に属する損害賠償請求権の額から差引くべきことは同原告らが自認するところである。
(二) 右のほか、被告らが五〇万円支払つたことは当事者間に争いがない。この五〇万円は原告西島容子本人の供述によれば、香典として受領したものであることが認められる。ところで、右香典の額、原・被告らの関係を考慮すると、損害賠償義務履行の一つの形式として理解し、原告俊之、同容子の損害をてん補すべき性質のものとするのが相当である。
5 弁護士費用
原告俊之、同容子が訴訟代理人に支払うべき弁護士費用のうち各原告につきそれぞれ三〇万円を本件交通事故による損害として相当と認める。
四 結論
よつて、原告西島俊之の請求は被告ら各自に対し、不法行為に基づく損害賠償金三八六万四、八〇五円とこれに対する不法行為日ごの昭和五二年九月六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告西島容子の請求は右と同一の支払を、原告西島繁の請求は被告ら各自に対し、同損害賠償金一〇〇万円と右同様の遅延損害金の支払を、原告西島愛子の請求は右と同一の支払を求める限度で理由があるから認容し、各原告のその余の請求は正当でないから棄却する。民事訴訟法八九条、九二条、九三条、一九六条
(裁判官 龍田紘一朗)